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東京地方裁判所 昭和29年(ワ)9368号 判決 1956年4月28日

原告 間篠覚一

被告 株式会社合同タクシー

主文

1  被告は原告に対し、原告が金五十五万円を被告に支払うと引換にプリムス一九四〇年式セダン乗用自動車一台(山梨第三、二三一号)を引渡せ。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを二分し、その一を被告の負担とし、その一を原告の負担とする。

4  この判決は、第一項に限り、仮りに執行することができる。

5  被告は、原告に対し五十五万円の担保を供して前項の仮執行を免れることができる。

事実

原告代理人は、「被告は、原告に対し主文第一項掲記の自動車一台(以下本件自動車という)を引き渡せ。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決並に仮執行の宣言を求め、その請求原因として、「本件自動車は、原告が所有し、訴外株式会社河端製作所に占有させていたところ、昭和二十七年十月十三日東京都渋谷区内において、訴外碓井正男、同野口勝弘及び同加藤辰造によつて窃取され、現在被告がこれを占有している。

よつて原告は、所有権にもとづき被告に対し、本件自動車の返還を求める。」と述べた。

被告の抗弁事実に対し「被告が昭和二十七年十一月二十二日に本件自動車を訴外平安タクシー株式会社(以下訴外会社という)からその代理人訴外伊王野俊太をとおして代金五十五万円で買受けたことは認めるけれども、その余の事実は否認する。」と答えた。

被告代理人は「原告の請求を棄却する。」との判決並に仮執行免脱の宣言を求め、答弁として、「請求原因事実は認めるけれども、被告は昭和二十七年十一月二十二日中古自動車の販売を業としている訴外会社からその代理人である訴外伊王野俊太を通じて、代金五十五万円で本件自動車を買いうけたのであつて、その占有取得は、平穏公然かつ善意無過失になされたのであるから、所謂即時取得したものである。従つて、被告が訴外会社に支払つた代金五十五万円の支払をうけない以上、被告は、原告の請求に応ずることはできない。」と述べた。<立証省略>

理由

一  原告の請求原因事実については全部当事者間に争がない。

二  よつて被告の抗弁につき判断する。

(1)  先づ被告が本件自動車を即時取得したかどうかであるが、被告が訴外会社からその代理人訴外伊王野俊太をとおして、代金五十五万円で本件自動車を買受けた事実は当事者間に争がない。そうである以上特別の主張及び立証のない限り、被告は平穏公然かつ善意に占有を開始したものであると認めるを相当とする。次に、右売買による被告の占有承継が無過失であつたかどうかの点であるが、証人広瀬盛徳及び同伊王野俊太(後記措信しない部分を除く)各証言によれば、訴外会社の代理人である伊王野俊太が昭和二十七年十月末頃本件自動車を被告会社へ持つて来て、被告会社の専務取締役をしていた訴外広瀬盛徳に対し、適当な買手があつたら紹介してほしい旨売却の依頼をしたところ、その後、本件自動車について所定の登録ができたら、被告において買受けようということとなり、同年十一月二十日頃山梨県の陸運局においてうけた車体検査に合格し、神奈川県渉外課長の藤枝要に払下げたという証明書であつたか或は所謂廃車証明書であつたか、必ずしも判然としないが、ともかくその何れかによつて山梨第三二三一号として登録ができたので、被告は、訴外会社から当時としては相応の価格である代金五十五万円で買受けたことが認められ、証人伊王野俊太の証言中この認定に反する部分は措信しない。その他この認定に反する証拠は無い。右認定事実よりすれば、被告は、本件自動車の占有を訴外会社から取得するにつき無過失であつたということができ、いわゆる即時取得によりその所有権を取得したものであるとしなければならない。

(2)  次に、訴外会社は中古自動車を販売する商人であつたかどうかの点であるが、右両証人の証言によれば、訴外会社では、他から買受けた中古自動車のうち自己のところで登録できなかつた車を他に売却することもやつていたこと、昭和二十七年四、五月頃から本件自動車を買受けるまでに被告は、訴外会社から既に四台もの中古自動車を買受けていること、更に同訴外会社は、中古自動車を、甲府市の山梨貸切自動車株式会社に二台、吉田町の需要先に数台売却していることを認めることができ、右認定に反する証拠はない。そうであつてみれば訴外会社は中古自動車の販売を業としておつたものと認めるのが相当であるから、民法一九四条の「同種ノ物ヲ販売スル商人」に該当するものといわなければならない。

したがつて、被告は、本件自動車を同種の物を販売する商人である訴外会社から所謂即時取得したこととなるから、被告の抗弁は理由があるということができる。

三  しかして本件自動車が窃取された昭和二十七年十月十三日から二年内に本訴が提起され、且その訴状が被告に送達されたことは本件記録上明瞭であるから、被告は、本件自動車代金五十五万円と引換に、原告に対し本件自動車を引渡さなければならないこととなる。

よつて、原告の請求は、右の限度において正当として認容すべきも、これを超える部分を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法第九二条を、仮執行の宣言及び免脱につき同法一九六条一項、三項を各適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 小川善吉)

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